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プロフィール

如月東子

Author:如月東子
C’est l’enfance de l’art.へようこそ。
(セ・ランファンス・ドゥ・ラール)

昔から絵を見るのが好きで、美術系の大学に行き「美術史」などを少し勉強しました。

その後、美術とは関係ないお仕事についたけど、美術について、普通の人よりはちょっぴりだけ多く考えてきました(多分)。

そんな私が、これまで美術鑑賞をするなかで気づいたこと・感じたこと・考えてきたことの中には、美術をもっと楽しみたいと思ってる人に、なにかヒントになることがあるかもしれません。

美術鑑賞の記録を中心に、美術館などの紹介や鑑賞の役に立つ情報などを載せていければ、と思います。

皆さんのお役に立てれば幸いです☆

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本『マウス―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語』読了

作者 アート・スピーゲルマン
   Art Spiegelman
原題 Maus - a survivor’s tale


★★★★★

『マウス―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語』の感想です。


『マウス』は、
アメリカ人の漫画家アート・スピーゲルマンが、
その父親が経験した第二次世界大戦での過酷な体験を
聞いて描いたマンガです。


スピーゲルマンの父ヴラデックは
ポーランド系のユダヤ人。

1939年のナチスのポーランド侵攻以降、
妻とともポーランド国内を転々としながらなんとか逃げ続けますが、
最終的には2人ともアウシュヴィッツに送られました。

その過酷な逃亡生活と収容所生活が
息子の筆によって詳細に綴られています。


このマンガの少し変わっているところは、
登場人物(ほぼ)全員が動物の顔で描かれていることです。
ユダヤ人はネズミ、
ドイツ人はネコ、
ポーランド人はブタ…など。

各人物の顔の描写は無個性的ですが、
その分、それぞれが
典型的な役割を担わされているようにも思えます。


***


父ヴラデックの記憶は詳細です。

よく知られた映画に、
ロマン・ポランスキー監督の
「戦場のピアニスト」
という映画があります。
http://www.kinenote.com/main/public/cinema/detail.aspx?cinema_id=33143

ポランスキー自身、
ゲットーで育ち、
母を収容所で亡くした経験を持つということですが、
この映画のなかでも、
ユダヤ人たちがしだいしだいにその生活圏を奪われ、
そしてあるときを境に急激にあらゆる権利を剥奪されていく過程が、
否応無しのリアルさで描かれています。

しかしヴラデックの明瞭な記憶は、
さらにその映画の行間を埋め、
いちいちの出来事のスキマを解説していくようです。
連続する日常がすべて恐怖に満ちた「非常」なのです。

ユダヤ人たちはなんの理由もなく人間性を奪われ、
周りの人間たちはなんの理由もなく、
ユダヤ人たちの人間性を奪いました。


***


ヴラデックの妻の生家が裕福であったことと、
なによりヴラデックが
たぐいまれな現状認識力と的確な判断力を持っていたため、
彼とその妻は、あのアウシュヴィッツすらを生き残ります。

しかし、夫婦の幼い子供を含め、
親戚一同はほとんど皆この時代に命を落としました。

「生きのびたのが最良の人たちではないし、
最良の人たちが死ぬわけでもない。無差別なのさ。」



***


過去を聞き出すスピーゲルマンは、
自分と父とのやり取り自体も描写します。

現在の父は、神経質で口うるさく、極端な吝嗇家です。
自殺した妻亡き後、
やはり強制収容所の生き残りの女性と再婚しますが、
その気難しい性格から家庭生活はうまくいっていません。

息子であるアート・スピーゲルマンもまた、
他人の意見を聞き入れない父を持て余し、いらだちながら
ときに常軌を逸したようにみえるその姿を描写しています。


***


現在のヴラデックがイライラして怒りっぽいのに対して、
過去を語るヴラデックの語り口調は淡々として、
当時の感情はあまり表現されていません。
戦争中を生きるヴラデックはむしろ淡々としてみえるほどです。

しかし、
息子が聞き出さない限り
決して口にしなかったアウシュヴィッツの記憶が、
絶え間なくヴラデックをさいなんでいたことは、
死ぬまで、夜うなされて大声をあげていたことでも分かります。

アウシュヴィッツの生き残りであったスピーゲルマンの母は、
1968年に自殺しました。

戦争中も戦争後も、
ヴラデックの唯一のよりどころであったであろう女性。
その口から「もうひとつの歴史」を聞くことは
永遠にできなくなりました…。


***


この作品は、
アウシュヴィッツの生き証人の証言としても貴重ですが、
癒し難い深い大きいトラウマを抱えた人物が、
戦後の世界を生き続けることの困難さを描いた点でも、
非常にすぐれていると思います。


アート・スピーゲルマンと精神科医パヴェルが話すシーン。

 アート :サミュエル・ベケットがこう言っています。
      「あらゆる言葉は沈黙と無のうえについた
      不必要なしみにすぎない」
 パヴェル:そうだ
 アート :でも一方で、彼はそう言ったんです。
 パヴェル:彼の言うとおりだ。そのことを君の本に入れるといい。



『マウス』はたしかに、
語られるべきもうひとつの物語です。



ナチス政権下で実際どんなことが起こったのか、
そしてそれを生き抜くということがどういうことだったのか、
少しでも知りたいという方はぜひお読みください。



『マウス―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語』(1991年)
『マウスⅡ―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語』(1994年)
作 アート・スピーゲルマン
訳 小野耕世
晶文社



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